【野元理香さん取材】日本(JCA)とオーストラリアのチアの違いとは?

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日本とオーストラリアのチアの違いについて、オーストラリア・シドニーで「Springs」というチアチームのコーチを務める野元理香さんにお話を伺いました。選手としてJCA(日本)でチアを経験し、現在はアメリカ式のチアリーディングを教える立場からみた、日本とオーストラリアのチアリーディングのスタイルの違いについて語っていただきました。

野元理香(のもと りか)さん自己紹介


福岡県出身。当時部員が100人以上もいた関西外国語大学のチアリーディング部PYRATESでチアリーディングを始めた。大学卒業後は、梅花チアリーディングチームFUNKY RAIDERSの初代メンバーとして活動し、「一からチームを作る楽しさや大変さ」「仕事と並行しながらチアを続ける難しさ」も体験した。

関西外国語大学時代の写真

現在は、オーストラリア在住。オーストラリア・シドニーで日系キッズを対象とした「Springs」というチアチームを2015年10月に発足させ運営およびコーチをしている。

これまでのチアリーディング歴は20年にも及び、日本では、日本チアリーディング協会(JCA)のルールの下でチアリーディングを学び、現在オーストラリアではJCAとは全く異なるいわゆるアメリカ式のルールの下、子供たちにチアリーディングを教えている。

梅花チアリーディングチーム時代の写真

野元理香さん過去大会成績

関西外国語大学PYRATES時代
2002年日本選手権大会(Japan cup)大学部門準優勝
2002年大学選手権大会(インカレ)3位入賞

梅花チアリーディングチームFUNKY RAIDERS時代
2009年関西大会 社会人部門優勝
2009年日本選手権大会(JAPAN CUP)社会人部門4位入賞

インストラクターとして

JCA主催の関西地区のワンデークリニックやサマーキャンプのインストラクターの経験もあり。その際に担当をしていたタンブリングレッスンは現在でも役に立っている。

オーストラリアでのキッズチーム発足のきっかけは?

スプリングス演技の写真

主人がオーストラリアの大学で博士号を取得するために当初は3年くらいの滞在予定で渡豪しました。来豪当時は妊娠7ヶ月で、こちらで息子を出産し、息子が9ヶ月の時に大学の先輩にお話を頂き、日本語補習校の放課後の時間に学校の施設をお借りしてスタートしたのがきっかけです。

さて、このようなきっかけでオーストラリアでもチアリーディングに関わるようになった野元さんですが、日本でのJCAチアスタイルから、オーストラリアではアメリカスタイルに環境が変わって気づいたことや感じたこと、両者のスタイルを知っているからこそ気づいたJCAの良さやアメリカ式チアの良さについてお話しを伺いました。

JCAの大会と現在オーストラリアで出場している各大会の違い

ルールや部門の違い

オーストラリアの大会は、技にもタンブリングの要素が多く含まれ、JCAでは必須の「コール部分」がなく2分30秒全て音楽のみで演技が構成されます。そのため、初めて見たときは同じチアリーディングでも全然違うスポーツを見ているようでした。

人数やレベル、年齢によって部門が細かく分けられ、実施していい技もレベル毎に詳細に決まっているので、レベルの高い技を無理して練習をすることがなく、大きな怪我が起きないように考えられている印象を受けました。

落とすようなスタンツはルーティンに入れないことがJCAもUSAでも基本的な考えにありますが、こちらでの大会本番には、JCAの大会に必ずいる男性スポッターいないので、確実にノーミスが出せる状態で出場できるようにスプリングスでも練習をしています。

大会出場規則の違い

オーストラリアでは、JCAのように協会への加盟は必要はなく、自由に様々な団体が主催する大会に出場エントリーすることができます。

JCAとは異なり、ユニフォームや靴など厳しい安全規定もないので、ユニフォームにスパンコールが着いていたりポニーテールにボリュームが出るようなウィッグを付けてるチームも多いです。

大会当日の雰囲気の違い

オーストラリアの大会は、緊張感のある競技というよりは、発表会のようなリラックスした雰囲気があります。

また、リハーサル会場が別のエリアにあり、各チームごとに、柔軟やウォームアップをするスペース→スタンツ→ピラミッド→タンブリング→音楽使用可能な全通しができるマットが用意されているウォームアップエリアが用意されています。それぞれ4分ずつチームでマットを使うことができるので、本番直前に十分なウォームアップができます。ベストなコンディションで本番を迎えられる環境があるのはとても良いと思います。

JCAのように本番前後に座って全てのチームの応援をすることはなく、自分たちと親交のあるチームを応援し、自分たちの表彰式が終われば帰れるので客席は常に流動的です。演技でもそれ以外の普段の生活でも、「人を応援する」というチアスピリットにはやや欠けているのかもしれません。(JCAチアの方がその点は強い)

表彰式はマットの上の自由な場所に座り行われるので、こちらもJCAとは雰囲気が大きく異なります。

表彰式の様子

USAチアを知っているからこそ気づいたのJCAの良さ

コール部分がどの部門にもあること

オーストラリアのチア(オールスターチア)はチア・サイドラインのようなコール部分がなく、2分30秒最初から最後まで音楽に合わせて動きます。

しかし、お客さんを意識できるのはこのコール部分があってこそだと思います。また、スタンツは他のアクロバット、体操などでも見ることができますが、コールはどのスポーツの中でも唯一チアリーディングにしかありません。自分たちの声(コール)を音楽代わりにするのは最も過酷ですが、それだけのエネルギーはやはり見てる方にも良い形で伝わります。

コールがどの部門にもあるJCAのチア特有の良さだと思います。

3層ピラミッドが主流なこと

3層ピラミッドはアメリカ式チアでいう「レベル7」該当チームにしか許されていないピラミッド技です。アメリカやオーストラリアでの主流はレベル6なので、日本のJCAチアのように高校部門から3層ピラミッドをするチームはほとんどありません。

ただ、3層ピラミッドは、怪我のリスクも圧倒的に上がりますが、全員の気持ちやタイミングも一つになっていないとできな技なので、自然に一番大切な信頼関係を自然に築くことができるのではないかと今感じています。

全国大会出場を目指すという練習過程での成長

オーストラリアではナショナルズ(全国大会)に出るための予選はなく、エントリーすればどのチームでも出場することができてしまいます。しかし、JCAでは、全国大会に出場できるチームがごく少数に限られているため、全国大会出場にかなりの重みがあります。全国大会を目指すという練習過程にも、後々の人生に役立つような大きな価値があると思っていて、それは日本のJCAならではの良さだと感じます。一つになるまで何度もぶつかりあってそれぞれ取り繕っている殻をぶち壊し(笑)中身の部分で繋がれたことは本当に特別な経験でした。

また、他のスポーツでは対戦相手がいますがチアでは完全に自分が敵なので、うまくいかないことを何かのせいにすることができない厳しい環境があります。そのおかげで、困難こそ自分を育ててくれるものという捉え方が身につき、これらはチアを通じて人間力を育てるJCAの考え方があってこそ経験できたことだと思っています。

JCAチアと比較したUSAチアの良さ

本場アメリカに行くチャンスが与えてもらえる環境

全国大会だけではなく、オーストラリアで開催される小さな大会でも、好成績を残すと、アメリカで開催される大会への出場権を獲得するチャンスがもらえます。JCAの大会では、優勝してもそのあとアメリカにつながるような大会がないので、このような機会の多さは、USAチアならではだと思います。

ルールや得点の付け方が細かく決まっている

細かくルールや得点のつき方が決まっているので、構成が非常に立てやすいです。本番の後はスコアシートをもらえるので、演技の何が良かったのか、次回は何に力を入れるべきか等詳細に知ることができます。そして、同じ部門の出場チームの中で、例えばタンブリングでは何位、スタンツでは何位のようにカテゴリーごとの順位も知ることができるので、自分のチームの強みを知ることができます。

受賞チャンスが多いのでモチベーション維持につながる

オーストラリアのチアは、部門がかなり細かく分けられているので、各部門の出場チーム数が少ないです。そのため、受賞のチャンスがJCAより圧倒的に多く、チアリーダー自身(特にキッズ世代!)のモチベーションを維持するのには効果的です。同じ実力のチーム同士が戦える仕組みもとても良いと思います。

スコアシートに抗議する制度があること

本番が終わるとすぐに減点シートを貰えるので、本番直後に減点されている箇所を知ることができ、その減点に疑問がある場合は抗議ができます。前回の大会では、本番直後に減点されたところを抗議したところが撤回され、1位に戻りました。ジャッジの方も人間なので間違いは発生します。このように順位が確定する前に双方でお互いに確認ができる制度はとても良いと思います。

コール部分がないこともメリットになり得る

コール部分がないので、体力を奪われずに連続性のある演技を考えられることも良いと思います。

コーチとしてJCAルールではないチアを教える大変さ&楽しさ

ルールやチア用語もJCAとはかなり異なるので、最初の頃は理解するのに時間がかかりました。

また、これはチアリーディングの協会は関係ありませんが、「命を預け、預かることの責任をチアリーダー自身が自覚すること」ということを常に念頭に置いて指導しています。大人であっても子どもであっても命の重さは同じで、人の命を守るのは大人ではなく子どもたちです。

チアではちょっとしたミスが怪我に繋がってしまうというリスクを持っています。「一生懸命やるだけでは完璧ではない」という意識をいかに持たせてあげられるか、この安全の意識を最初の初期の頃に根付かせ信頼されるチアリーダーへと成長できるよう指導することは大変でもあり、やりがいでもあります。

JCA以外のチアに触れて良かったこと

どちらの良さも知ることができたこと。JCAにもUSAにもそれぞれに築き上げてきた文化と素晴らしい魅力、強みがあると思います。同じスピリットを持つチアリーディングという一つのスポーツが、お互いの強みをシェアしてチアリーディングというスポーツが多くの方に愛され発展していったら良いなと願っています。