アメリカVarsity社のチアリーディング界独占状態について

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チアリーディング界に長くいる人なら、バーシティの名は知っていますよね。今でもJCAの大会では、バーシティ製のユニフォーム着用義務がありますが、同じように、アメリカでもそのような市場独占状態が続いていました。

今回はアメリカのVarsity社がアメリカでこれまでどのような独占状態を保持していたのかについての英文記事を日本語訳しました。

Varsity社のチアリーディング界独占

今日は、チアリーディング界を支配するVarsity社について書こうと思います。Varsity社は、現在アメリカのBain Capitalという投資ファンドによって経営されています。チアリーディング界をコントロールしてている会社です。

本題に入る前に、アメリカの独占禁止法に関してお話ししましょう。

アメリカでは様々な独占の動きがありますが、これに関しては、2ついいニュースがあります。

一つ目。アメリカの連邦取引委員会がTreeHouse FoodsとPost Holdingsの二つの会社が合併することに対して訴訟すると発表しました。そのため二つの会社は合併の話を破棄することになりました。このように会社合併を阻止したということで、政府がしっかりと隅々まで「独占」について見張っているということが明らかになりました。

二つ目。連邦取引委員会と司法省は、1984年に発表したガイドライン「Non Horizontal merger」を撤回しました。Non Horizontal mergerとは、異なる市場にいる会社同士が合併し、合併したとしてもすぐに変化が見られないような合併のことを指します。このガイドラインが撤回され、新しいルールが制定される動きがでています。

※日本でも独占禁止法などがありますが、アメリカでもこのように独占を排除するような動きがあり、それが最近加速されているということですね。

さて、2日前に、私の同僚が私にこう言いました。「どうやって、チアリーディングが独占状態だってわかったの?」

そりゃもう同然だ!VarsityブランドがBain Capitalという投資ファンドによって経営されている会社だから!!

チアに熱狂する人とお金の関係:独占が生まれる状況

チアリーディングはアメリカでは大きな文化の一部になっています。元々は、1940年代に男性が構成する応援チアとして誕生しました。今や、チアリーディングは選手の多くが女性となり、体操競技とダンス競技の間をとったようなスポーツに発展しました。ちなみに、チアリーディング出身の有名人はたくさんいます。例えば、アメリカのブッシュ元大統領もチアリーダーでした。

今日、多くのチアリーダーは女の子か若い女性です。高校だけでも約40万人の競技者がいるとされています。そして高校を超えて、今や多くのチームがあります、全体競技者数は、330万人にも及ぶと言われています。

高校・大学世代のチアリーダーたちは、多くの大会に出場し、スポンサーを獲得し、怪我にも耐え、SNSなどでも自身がチアリーダーであることを自慢します。

チアリーダーは練習に熱心で、熱狂的でもあります。一方で、チアリーディングは、頭蓋骨骨折などの致命的な怪我をもたらすこともあります。そんなスポーツでありながらも、女子たちは、チアのレギンスやティシャツを身にまとい、タンブリングやモーションを練習し、そしてインスタグラムの有名人たち「Cheerlebrity(チア界の芸能人)」に対し熱狂的になっているのです。

また、チアリーディングは、お金のかかるスポーツです。トップアスリートになると、大会参加費用、ユニフォーム、トレーニング用ウェア、ジャケット、チームバッグ、サマーキャンプ代、タンブリングクラス、月謝、大会演技振付費用などで年間で150万円以上かかります。トップアスリートでなくても年間25万円〜100万円はかかってしまうのです。チアリーディングを習わせることのできる家庭の所得は平均以上と言われているくらいです。

この状況こそが「独占」が生まれる仕組みなのです。

チアリーディング界での鍵はVarsityブランドにあります。Varsityブランドは、チアに関するアパレルや、キャンプ主催や、大会主催によって資金を得ています。設立者はジェフ・ウェブで、1970年代にVarsityを設立して以来、高校生にチアキャンプやクリニック、そして大会までをも提供してきました。

スパンコールのついたギラギラしたユニフォーム、でっかいチアリボン……これらのファッションを構築することによって、Varsityブランドが資金を得ているのです。

Varsityブランドの独占に関しては、チアリーディングの大きな大会を主催し始めたことが拍車を変えたといえるでしょう。

1980年代には、ESPN(アメリカのメディアエンターテインメント大手企業)がチアリーディングを紹介し、瞬く間に全土に広がりました。2004年には、VarsityがNCA(アメリカのチアリーディング協会)を買収しました。そして2015年には、競合企業だったJamブランドをも統合することとなりました。今や、大会に出場するということは、Vasrityの世界に入るということになるのです。

Varsityの設立者であるウェブ氏はかなり腕のあるビジネスマンでしたが、Varsityブランドは、2014年にCharlesbank Capitalという投資ファンドによって買収されました。そして、2018年にはCharlesbank Capital は、Bain Capitalという別の投資ファンドに、Varsityブランドを売却しました。

Varsityのチアリーディング界における力は相当なものです。チアリーディングの大会出場費用や観客の入場料はかなり高いですよね。アメリカのチアリーダーたちやその家族が怒るのも、無理はありません。Vasrityの買収に関する記事を読めば、なぜそれほどの高い大会出場費用を支払わなければならないのかがわかるでしょう。社長の価格決定パワーは恐るべしです。

この力は、メディアにも及びました。ネットフリックスで放映された「チアの女王」でも、チアリーダーたちがチアリーディングをテレビで見られなくなったことについて文句を言っていましたね。なぜなら、Varsityが主催する大会は全てVarsityの有料アプリで放映することになったからです。その有料アプリ以外では一切見ることができなくなったのです。

2018年には、Varsityの設立者であるウェブ氏は、明確に「チアリーディング界を独占するというのは戦略だった」と話しています。

ウェブ氏の戦略はうまくいきました。実際に、2016年、Varsityのライバル企業が、Varsityのチアリーディングアパレル市場でのシェアは80%、チアリーディング大会のシェアは90%であると発表しました。

Varsity製品をチアリーダーに購入させる数々の戦略

Varsityの策略は、かの有名なロックフェラーを思い出させます。

競合チアアパレル会社の排除

Varsityの大会に出場するチームにユニフォームのブランド制限はありません。どのブランドのユニフォームでも着用できます。しかし、Varsityのライバル企業は、Varsity主催の大会に出店する事はできません(大会会場の記念品売り場で、商品を陳列できないということ)。チアアパレル会社にとって、チアリーディングの大会で商品を販売できないというのは痛手です。まさにこれは、独占禁止法でいう「市場閉鎖」状態です。さらにこの独占の動きは、Varsity主催ではない大会のほとんどを主催していたJam BrandsがVarsityと統合した時に顕著となりました。統合後は、Jams Brandsが主催する大会でもVarsityブランド以外のチアアパレル会社とは提携を切らざるを得なかったのです。

Varsity製小道具の購入促進

Vasrity以外のブランドの排除だけではありません。大会に出場するチームがVarsity製の小道具(メガフォンやポンポンなど)を使用すると、特別加点が得られるということもVarsity設立者のウェブ氏は認めました。これは、Varsityブランドの小道具の購入を仕向けるための、Varsityによる大会ルールの偽装他なりません。実際に、ウェブ氏は裁判所で「チアリーディングの大会は、Varsityのビジネスをプロモーションするために行われていた」と証言したのです。

このようなことがいつまでも隠されるわけがありません。2014年には、このような皮肉を含んだ発言をした人もいます。

Varity秘密警察みたいなのが大会会場にいて、リハーサルエリアにいる選手たちがしっかりとVarsity製品を身につけているか確認しているんだわ。」

Varsity製ユニフォームの購入促進

また、ユニフォームに関してですが、チアの選手たちは、チームから指定されたチアユニフォームを購入し着用します。実は、Varsityが経営しているチアジムもあって、ユニフォームなども全てVarsity製品を購入するようコントロールされているのです。

Varsityは、チアジムと数年間単位で供給契約を結び、もしチアジムがVarsity主催の大会に出場したり、Varsity製の商品を購入したら、Varsityからチアジムにリベート(販売奨励金)が支払われる仕組みになっているのです。リベート制度は独占を促進するためによく使われる手法なので驚くことはありませんが。

Varsityの法的パワー

そして、さらに、Varsityは法的な力をも見せつけています。

Varsityブランドは、競合会社を著作権侵害として告訴し、最高裁判所までいきました。結局、判事たちは揃ってVarsityブランドを支持する形となりました。

残念ながら、このチアリーディング市場でVarsityと戦うことは厳しいのです。

「いくつかの小さな競合でさえ、事業を諦めています。ティシュ・レイノルドは、2005年にJust Briefsというトレーニングウェアの会社を作り、3億円レベルの企業へと成長させましたが、結局2010年にVarsityに買収される形で終焉し、レイノルドはVarsity社員となったのです。

もはやVarsityはチアリーディング界の中で確固たる力を持ち、その力はアマゾンの力すらをも超える勢いなのです。

Varsity社による数々のコントロール

Varsity社による報復

Varsityからの「報復」を恐れるあまり、人々がVarsityにものを言えないという問題もあります。

「Varsity製品を使用した際に発生した怪我について、さらには、独占禁止法訴訟の名目でVarsityを訴訟することでVaristyの力を弱めようとしたものの、結局、どのチアジムや選手たちもVarsityに対して証言を行うことを嫌がり、十分な証拠を出すことができませんでした。これくらい、Varsityの報復を皆恐れているのです。Varsityはアメリカだけでなく、世界中のチアリーディングをコントロールしています。抵抗力がもはやない状態です。」とNational Cheer Safety Foundationのキンバリー氏は語ります。

Varsity社のロビー活動

Varsityはさらに、チアリーディングに関連するNPO団体に資金調達を行ったりしています。例えば、NPO団体のAmerican Association ofCheerleading Coaches& Administratorsです。これらの活動は、チアリーディングを「スポーツ」とみなされないようにするためのロビー活動なのです。スポーツとみなされてしまうと、様々な規制、規則を定めなければならないので、Varsityはそれを阻止したいのです。(ちなみにVarsityは“チアリーディングはスポーツ以上のスポーツだ“と言っています)

2003年の文書には、Varsityは、「チアリーディングがスポーツであると認識され様々な規則が増えると、Varsityのビジネスや金融的な条件、運営にとっては不利な状況となるだろう」と記載があるのです。

Varsityの動きを止めた新たな団体

Varsityには一つ迫りくる問題があります。昨年、NCAA(アメリカの大学スポーツを管轄するNPO団体)が「アクロバティック&タンブリング」というチアリーディングに似たスポーツを設立したのです。そしてこのスポーツは、Varsityの傘下にはありません。USAジムナスティックスという、これまたVarsityに似た、市場を独占している団体の元できたスポーツなのです。つまり、Varsityのような企業を封じ込めたのは、結局似たような会社であったということです。

どうでしたか?

これらVarsityの独占状態から回復するには、リベート制度をやめ、Varsity主催以外の大会を増やし、チアリーディングを真のスポーツと制定することが大事なのではないでしょうか?

おっと、そう言えばチアリーディング界のモノポリスト(独占する人)であるウェブ氏は、Varsityを投資ファンドに売却した後は政界に進出しました。彼は今、New American Populistと呼ばれる団体を運営しており、その団体のゴールは「独占禁止法を促進すること」だそうです。(これまで独占的にチアリーディング界を支配していたのに、現在は全く逆のことを行っているのですね)

原文(https://mattstoller.substack.com/p/this-is-not-a-democracy-its-a-cheerocracy