チアリーディングで脳震盪を起こした場合の対処について

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チアリーディングにおいて、スタンツやタンブリングなどが原因で脳震盪をおこすことがありますが、その対処や考え方について海外と比較すると甘いと感じることが多々あります。そこで本記事ではチアリーディングで脳震盪を起こした場合の対処について解説します。

一般的な内容での解説をしますが、個人個人の状況により対処は異なりますので脳震盪の疑いがある場合は必ず医師の診察を受けてください。

海外の指導者の脳震盪に対する認識

チアリーディングが発展している国(たとえばアメリカやオーストラリア)では、チアリーディングコーチの資格がないと指導ができず、大会引率もできない仕組みになっています。また、そのコーチ資格を取得するために「脳震盪学習コース」というのをオンラインで受講し確認テストに合格するのが必須となっています。この脳震盪コースに合格してやっとチアリーディングコーチの資格取得条件を満たすことができます。

世界的にチアリーディングのコーチ資格といえば、IASFという国際的なチア協会が発行するIASF Coach Credentialがメジャーで、アメリカやオーストラリア、カナダ、イギリスなどでは全てのコーチがこの資格を取得しているはずです。

そのため、全てのコーチが脳震盪に対する予備知識がある状態で指導にあたっています。

日本における脳震盪に対する認識

日本においては、まだまだ脳震盪に対する認識が甘いと感じることが多いです。これはチアリーディングに限らず、また、指導者に限らず、全てのスポーツ、そのスポーツに関わるすべての人(保護者、選手も)に共通することかと思います。たとえば下記が実際にあった会話の例です。

少年野球で野球ボールが頭にあたって脳震盪を起こし、医者からは1ヶ月休養するように言われたが、子どもはかなり元気に遊び回っているので、もう練習に戻らせてもいいのではないか?

チアリーディングのスタンツから落下をし脳震盪を起こした。医者からタンブリングはするなと言われたが、スタンツであれば大丈夫だと自己判断し、スタンツをやってしまった。

このような脳震盪を甘くみているケースが多々あると感じています。もちろん、一生スポーツができなくなるわけではないですが、脳震盪を一度起こしてしまった後の対処は慎重になるべきです。

チアリーディングにおける脳震盪とは

脳震盪といえば、ラグビーやアメリカンフットボールなど、激しい衝突や接触を伴うスポーツのイメージが強いですが、チアリーディングにおいては、スタンツの落下の衝撃や、タンブリングの失敗によるマットへの落下により脳震盪を起こすケースが多いです。

また、ここからは、USA CHEERというアメリカのチアリーディング団体が発行しているチアリーディングに特化した脳震盪についての調査結果をもとに、チアリーディングが原因で発生する脳震盪の症状の特徴と発症後の対処、そして、再び練習に戻るまでの推奨プロセスについて解説します。
参考文献:https://www.usacheer.org/wp-content/uploads/2019/09/USA-Cheer-Cheerleading-Concussion-Protocol.pdf

チアリーディング練習中に発症した脳震盪の主な症状

チアリーダー本人から報告された症状

頭痛、吐き気、めまいやふらつき、ぼやけた視界、明るい光や騒音に敏感になる、ぼんやりとする、動きが鈍くなる、睡眠障害、集中力の低下、記憶障害

指導者や他のチアリーダーから報告された症状

唖然・困惑した様子、モーションなどのチアの動きを忘れる、構成やダンスのフォーメーションがわからなくなる、周囲で何が起こっているのかわからなくなる、動きがぎこちなくなる、意識を失う、性格や振る舞い方が変わる、頭を強打した後にゆっくり起き上がったり頭を抱える動作がある

これらの症状がある場合は脳震盪を疑い、練習には参加させず、休養させること!

脳震盪発症後の適切な対処について

  • 上記のような症状がある場合は練習を続行させず必ず休ませること
  • 医師の判断なしに、脳震盪発症後24時間以内に練習に参加しないこと
  • 自己判断で練習に参加し始めたりしないこと
  • 脳震盪に明るみのある医師の判断を仰ぎながら、チアの練習に戻る段階(「Return to Cheer プロトコル」)に従うこと

Return to Cheer 手順について

脳震盪発症後のチアリーディングの練習にフルで参加できるようになるまでの推奨プロセスです。

この手順は、脳震盪の症状が24時間ないことと、医師から了承を得た上で開始すること。
フェーズ実施中及びフェーズ終了後24時間以内に症状がなかった場合は次のフェーズに進み、症状の再発があった場合ひとつ前のフェーズに戻ること。
フェーズそれぞれの運動に必ず監督者を付けること。

フェーズ1:軽いエアロビック運動

歩行、ゆっくりとしたランニングマシーンやバイクマシーンでの運動(約15分)

チアの練習:禁止

フェーズ2:中強度のエアロビック運動

ジョギング(15分)、声をあまり出さずアームモーション動作のみの練習への参加、軽めの上半身のウェイトトレーニング(自分のマックスの50%まで)

チアの練習:禁止

フェーズ3:強度のあるエアロビック運動

ジョギング(20〜30分)、タンブリング速度程度でのスプリント(短距離走)運動、速い頭の動きも含んだアームモーション動作、空通し、下半身のウェイトトレーニング(自分のマックスの50%まで)、腕立てやスクワット腹筋などの筋トレ

チアの練習:禁止

フェーズ4:スポーツ運動・トレーニング

フルウェイトトレーニング、アジリティトレーニング、その他筋トレ、

チアの練習:側転やロンダードなどの簡単なタンブリング、クレードルキャッチ(バスケットトスや回転技はNG)、スポッターをしっかりつけた状態でのプレップレベル以下かつ両足でのスタンツ(リバティ禁止)、ダンス(ただし普段より控えめに)

※タンブリングをする場合は合計30分までで、各タンブリングパスの間に2分の休憩を入れる

フェーズ5:チアの練習完全再開に向けた準備

フルウェイトトレーニング、アジリティトレーニング、その他筋トレ、

チアの練習:スポッターをつけた状態での両足エクステンションまで可能(ディスマウントはストレートのみ)、ひねりなしかつ2回転までのタンブリングは可能(例:ロン宙はOKだが、ロンバク宙はロンダート・バク転・宙返りの合計3回頭の回転が入るので不可)、ダンス

※タンブリング練習は1回60分までで、各タンブリングパスの間に2分の休憩を入れる

フェーズ6:通常通りの練習再開

スタンツやタンブリングも含め通常通りの練習再開可能。大会出場可能。

頭痛やバランス感覚、視界不良、感情の起伏、認知、首の痛みなどが続く場合は、専門医に相談し、的確なリハビリを受けることが推奨されています。

チアリーディングでの脳震盪を予防するために

そもそも脳震盪を予防するにはどうすればいいのでしょうか?3つのポイントがあります。

  • 実力を大幅に超えたスキルの実施をしない

新しいスキルを習得するためには段階を追った練習が必要です。たとえば、地面で宙返り(補助アリでもいいので)を実施したことのない選手が、バスケットトスの上で急に宙返りをしたら危険です。また新入生がいきなりエクステンションレベルのスタンツを行うこともリスクにつながります。実力を大幅に超えたスキルの実施はしないよう周囲からもそして指導者からも指示することが大切です。

  • スポッターを必ずつける

万が一落下があっても余分なスポッターがいることで防げるミスもあります。新しい技を行うときは必ずスポッターをつけるようにしましょう。

  • 柔らかい安全なマットの上で競技する

チアリーディング用の青マット上で練習を行うことが推奨されますが、日本にはまだない施設やチームも多いと思います。その場合、体操用の白マットや厚めのジョイントマットなどを必ず敷くようにし、硬い床の上での練習を極力避けるようにすることが予防につながります。

まとめ

脳震盪はチアリーディングに限らずどのスポーツでも起こりうるものですが、チアリーディングを行う選手、指導者、保護者すべてがしっかりと症状や対処法を知り、万が一起こってしまった際に適切な対応ができるよう心がけていきたいですね。

なお、本記事に記載した内容はあくまでも一般的な内容で、症状や状況によって対応が異なります。自己判断せずに必ず医師の判断を仰いでください。